聖賢の国へ②
全く、大手企業に入らなくて良かった。この小回りのききようと、社長のトップダウンの意志決定の速さは業界中堅企業ならではだ。
出張命令を受け約20時間後、俺はインド南部のチェンナイに降り立った。空港を出ると黒山の人だかりだ。圧倒される。到着を待つ人々か或いは客引きか。
闇夜の中に僅かに照らされたギョロ目が此方を見てる。
客引きを掻き分け、俺は取引先が用意してくれたタクシーに乗った。タクシー運転手は無表情で『ようこそ』と言うとクーラーボックスからミネラルウォーターを取り出した。ボックスの中の氷は溶け、ボトルは水浸しだ。インドでは全てのタイミングで衛生面に気を付けろと言われていた。念のためボトルの口を除菌シートで拭き、水を飲んだ。
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